カズオ・イシグロ『夜想曲集』を 読んで!
以前 カズオ・イシグロさんと村上春樹さんとの対談を 何かで読んで どこか村上さんと 似た雰囲気がありそうに思てきて 興味を持ち 初めて読んだのが 長編小説『わたしを離さないで』(2005)でした。全く 何の予備知識もないまま ページを開いて 初めのうちは 何のことについて 話が進んでいっているのか よくわからなかったのですが 段々と 進むにつれ わかりかけてきて 現実という限られた枠の中でしか 生きていけないことが 悲しくも わかったような気分にさせてくれたものでした。 そして 人間描写が素晴らしい作家やなあと思いました。
そのカズオ・イシグロさんの初めての短編集『夜想曲集』が 音楽をテーマに5編収録されているものがあると知り 早速 読んでみました。副題が <音楽と夕暮れをめぐる五つの物語>。 原題は<Nocturnes>なので クラシックにまつわる物語と思いきや 音楽がらみのユーモアがあって 時には 笑わせてくれる男女の物語で 5編とも 印象深い面白い物語でありました。
<老歌手>では、ベネチアのゴンゴラの上から ビッグネームの歌手トニー・ガードナー(トニー・ベネットを 思い浮かべましたが。)が 不仲の妻(美人)に 歌を捧げる話で 伴奏のため 一晩雇われたギター弾きが 語る物語。トニーの人間臭さが とてもよかったです。
<降っても晴れても> 断ることができない ダメ男が 介入する 不仲な友人夫婦の修復に 一役買う話で 馬鹿さ加減が 何とも面白いです。
<モーパンヒルズ>片田舎にやってきた ギター弾きの青年が 巡業で 旅をしている奇妙な夫婦と出会い 励まされる話。ちぐはぐさが 実際によくありそうなので 笑ってしまいました。
<夜想曲>才能あるサックス・プレーヤーが 売れないのは 顔のためだと マネージャーに言われ 整形する。その入院さきの病院で 同様に入院しているセレブより 招待を受け 夜の散歩に出かけるという話。くだらないと思いつつ 親しくなっておけば 恩恵があるかも と期待する せこい思いと交錯する。駆け引きが 面白かったです。このセレブが 初めの<老歌手>の妻で 価値観のずれが おかしいです!
<チェロリスト>若くて有能なチェロリストが 演奏しない女性チェロリストと出会い 奇妙なレッスンを 受けることになる。そして 衝撃の告白をされる物語。
と まあこんな風ですが フランス映画を 観ているような感覚で 生活のごく一部を 切り取ったものが 意味することとか 何かの教訓が隠されているのとかは 全く感じられず 短編小説のいいところが ちりばめられている一冊ではなかったかと思いました。
カズオ・イシグロさんの 1989年発表の『日の名残り』は イギリス文学の最高峰ブッカー賞に 輝いている作品で 次に 読んでみたいリストに 入れときました。
私が 最近 気にいった本の一冊でした。